詩:如月

昼下がりのホウレン草

今夜は何を食べようか
調理台の上にホウレン草を見つける
午後二時半

食材の変化を愛でながらゆっくりと台所に立てるのは
うれしい

鍋にたっぷりのお湯を沸かしてホウレン草を茹でる
さっと茹でて冷水に浸す
ほんのひと時だが ホウレン草は冷たく澄んだ水の中で瞑想する
緑は艶やか 深みを増す

私はお湯だけが残った鍋を眺めている
柔らかく湯気が立ち上がり
ホウレン草の息づかいが 微かに残っている

萌黄色

野菜の湯浴みはいつまで眺めていても飽きることはなく
時を忘れる

茹で汁は澄んでいて 萌黄色の小さな浴槽はそのまま残っている

睦月の詩

わたしたちのうち

おちこんだ おちこんだ
ママが おちこんだ

わたしのママはおちこむことがある

ママだけにみえるあながあって ママはひとりでそこに入っていく
わたしに 何も言わないで ひとりで すっと入っていく

わたしがママに話しかけても ママは そうだね としか言わない
そして 遠くの木を見ている

木の向こうには からからに乾いた草っぱらが広がっていて
すすきが右と左にゆっくりと揺れている

ママもすすきと同じ動きをして 少し体を揺らしている

深呼吸なのか ため息なのか わからないけれど
ママは 大きく息を吐く

ママが入りこんでいるあながわたしに見えるなら
わたしは ママをあなからひっぱって
助けてあげられるのに

でも わたしには ママがおちこんでいるあなが見えない

だから わたしは ママの横で
スケッチブックを開く

ママとわたしのうちを描く
台所と寝る部屋と ねこが昼寝をする部屋を描く
やかんを置いたストーブも描く

玄関のところにはお花が咲いていて ママの車が停まっている
山を描いて その上には鳥が飛んでいる
空にはおひさまがいて ママとわたしのうちを照らしている

ここが ママとわたしのおうち

ママは帰ってくる
きっと 笑って ここに帰ってくる

夏空への賛歌

夏の朝

 

朝早く目が覚める
五時

玄関を開けて外を眺める 今朝はとりわけ朝焼けが美しい
南西の澄んだ空に小さな雲たちが浮遊している その中に混じって幾すじかの紅い光の存在を見つける
真夏の太陽が織りなす自然美

蝉たちが泣き始める前の限られた時間 密やかに雲と鳥たちを交えながら談笑している
西の空には月もいる
早朝の太陽と月
大空の中で屈託のない笑顔を浮かべながら 仲睦まじく話してる
今ここに互いが在ることがうれしくて うれしくて

農夫たちは畑で草むしり
雑草の勢いは留まることを知らない

夏の第二章 ここに始まる

雨の季節に詩を

だから 私は

 

大地は潤っている

紫陽花が見事だ

蟻の行列はどこまで続いているのだろうか

ねえ お隣さんが来られているよ

 

あなたとの時間は 果てしなく広がるけれど ほんの一瞬なのさ

 

猫があくびをしたね

これから どこに出かけていくのだろうね

猫のあしあとを いつの間にか追っている

あなたも 私も

こんな時間が愛おしくて ことばを発することをつい 忘れてしまう

あなたは余韻を残して また いなくなる

 

ひとりになってしばらくすると ことばと戯れたくなる

あなたと見たもの 感じたものを もう一度思い出して

文字にする

今度は ちゃんと言葉にする

だから 私は

あなたに 手紙を書きたくなる

詩:睦月

季節のブーケ

これ ツキノハナ そしてこれはイヌノシッポ
ママにおみやげで はなたばにしたよ はいどうぞ

週末の朝 娘から届く季節のブーケ

家の周りで見つけた草花たちが小さな手の中にすっぽりと収まっている
今朝は紫色でまとめられた花束

よく見るとブーケの下には水で湿らせたハンカチが巻かれている
草花たちを新鮮に保つ工夫のようだ

受け取る側も真摯に対応しようと私は水仕事の手を休める

するといつの間にか時の流れは変わり
朝の光を意識できるようになっていた

鳥たちは近くにいるようだ

娘は自分の摘んできた草花たちが湯呑みやコップに活けられていくのをひととおり確認する
そうするやいなや
もうすこし つんでくるね と言いながら再び朝日のもとへ駈け出して行った

ことばで想いを

おはようございます。今日は久しぶりに晴れましたね。
娘を保育園に送ったあと、仁比山神社に寄ってきたところです。境内のいたるところに石蕗(ツワブキ)が咲いていました。
雨降りの日が続くと楽しみの水汲みにはなりませんが、お天気の良い日は水を汲むついでに森林浴ができ気分爽快になります。雨で潤った植物たち、とりわけ今朝は水汲み場のところのシダ植物が印象的でした。嵐や雨が過ぎて行った後の静けさ、このほんの一瞬の空気を味わうことが自分自身にとって何にも代えがたい活力となるのです。本当にありがたいことだなとしみじみと感じています。

さて、昨夜はちょっと特別な食事の時間となりました。
毎食のことなのですが、娘は好きなものだけを先に食べて煮物や野菜の和え物などの副菜をずるずると後回しにします。この後回しになった副菜や汁物を食べるのにとても時間がかかるのです。この時間がとてもやっかいなのです(笑)。
昨夜は時間にゆとりもあったのでいつもとは違う方法ですんなりと食事が終わるよう私なりに思いついたことがありました。
「詩を読んであげよう。」
なかなか良いアイディアだったと思います。
読み始めると娘の目が輝きだしました。そして、自然に箸を動かし、大豆の五目煮を口に運んでいるではありませんか。おやまあ。こちらも楽しくなり3編ほど得意げに朗読をしたのです。
ことばにちからがある。
声に出して読むと改めて良い詩集だなと私までうれしくなり目が輝きました。
昨夜の1冊は、こちらです。
『人はかつて樹だった』(みすず書房) 長田弘
おすすめです。

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