詩:睦月

季節のブーケ

これ ツキノハナ そしてこれはイヌノシッポ
ママにおみやげで はなたばにしたよ はいどうぞ

週末の朝 娘から届く季節のブーケ

家の周りで見つけた草花たちが小さな手の中にすっぽりと収まっている
今朝は紫色でまとめられた花束

よく見るとブーケの下には水で湿らせたハンカチが巻かれている
草花たちを新鮮に保つ工夫のようだ

受け取る側も真摯に対応しようと私は水仕事の手を休める

するといつの間にか時の流れは変わり
朝の光を意識できるようになっていた

鳥たちは近くにいるようだ

娘は自分の摘んできた草花たちが湯呑みやコップに活けられていくのをひととおり確認する
そうするやいなや
もうすこし つんでくるね と言いながら再び朝日のもとへ駈け出して行った

ことばで想いを

おはようございます。今日は久しぶりに晴れましたね。
娘を保育園に送ったあと、仁比山神社に寄ってきたところです。境内のいたるところに石蕗(ツワブキ)が咲いていました。
雨降りの日が続くと楽しみの水汲みにはなりませんが、お天気の良い日は水を汲むついでに森林浴ができ気分爽快になります。雨で潤った植物たち、とりわけ今朝は水汲み場のところのシダ植物が印象的でした。嵐や雨が過ぎて行った後の静けさ、このほんの一瞬の空気を味わうことが自分自身にとって何にも代えがたい活力となるのです。本当にありがたいことだなとしみじみと感じています。

さて、昨夜はちょっと特別な食事の時間となりました。
毎食のことなのですが、娘は好きなものだけを先に食べて煮物や野菜の和え物などの副菜をずるずると後回しにします。この後回しになった副菜や汁物を食べるのにとても時間がかかるのです。この時間がとてもやっかいなのです(笑)。
昨夜は時間にゆとりもあったのでいつもとは違う方法ですんなりと食事が終わるよう私なりに思いついたことがありました。
「詩を読んであげよう。」
なかなか良いアイディアだったと思います。
読み始めると娘の目が輝きだしました。そして、自然に箸を動かし、大豆の五目煮を口に運んでいるではありませんか。おやまあ。こちらも楽しくなり3編ほど得意げに朗読をしたのです。
ことばにちからがある。
声に出して読むと改めて良い詩集だなと私までうれしくなり目が輝きました。
昨夜の1冊は、こちらです。
『人はかつて樹だった』(みすず書房) 長田弘
おすすめです。

Emily Dickinson’s Film

19世紀のアメリカの詩人、Emily Dickinson を描いた映画が佐賀のシアター・シエマさんで上映されるそうです。(10月29日から)個人的にとても好きな詩人です。
Autumn にも選詩集と訳詩集をそれぞれ1冊ずつ置いています。
どちらもお貸しできますので、ご興味のある方がいらっしゃいましたらご連絡ください。

おじいさんのうた

食べんしゃい

おじいさんは今日も突然やってきた
いつもの足音
縁側のところで声がする

「かぼちゃ 太かつがある ちょっときんしゃい」

我が家の隣はおじいさんの車置き場
車の中にはおじいさんの畑で採れた野菜が数種類
“はじめまして”
えびすかぼちゃ なすび きゅうり

「こん かぼちゃは えらいうまか
肉と炊いたら ころっとうまか
天ぷらにしたってよかし
食べんしゃい」

そう言って私に持っていけと目で合図した

なすびはちょっと硬そうだけど 食べてみよう
そう思いながら私は野菜たちを運んで縁側に置いた
どさっ

もらったそのかぼちゃをじっと眺めていたらまたすぐにおじいさんはやって来た

「麦茶を一杯飲ませんかい」

湯呑のお茶は一気になくなった
そうしておじいさんは少し話したら さよならも言わずに帰って行った

おじいさんの家の玄関には黒猫が一匹
主人の帰りを待っていた

“食べんしゃい”

私の中でおじいさんのこのことばが繰り返し響いていた

詩を:文月

ベルガモット礼賛

赤い大きな花
雨の中 緑の庭にひときわ目を惹くベルガモット

梅雨の間じゅう咲いていたこのベルガモットがとうとう枯れてしまった

けれども 今の私には“枯れる”という表現がしっくりと来なかった

素足のまま なりふり構わず 髪を振り乱して走り抜けた
雨の中でも 勢いは変わらず踊り続けた
雨音というリズムに合わせて

ひとときもじっとはして居られず からだじゅうに稲妻が鳴り響いた
頭の中は冴えわたり 閃光が皮膚に浸み込んでいった

夏の雨 そして、ひとときの夢であった

しばらく降り続いた雨は一気に上がり 土壌は乾いた
昨夜までの情熱も雨に混じって土の中に溶け込んだ

そして
私はようやく腑に落ちた

ベルガモットは満ち足りた表情で笑っているのだった
すっかり乾いて ちりちりになっていたけれど
彼女は美しかった

私が顔を近づけると 先端が薄紅色の花びらを落としながらまた笑った

雨と太陽 そして乾いた土の匂いがした

詩:それぞれの一日

今朝はくもり

 

あきちゃんとけんかをした

今朝は早朝からの仕事でいつもより40分早く家を出た

保育園に向かう車の中で あきちゃんはいつものCDを聴きたいと言った
それはわらべ歌が15曲ほど入っているCDだ
けれども実際にかけてみるといつものように大きな声で歌うわけでもなく
下を向きながら「コレ チガウ」
と私に次の曲へと早送りをするように言うのだった
1曲目をやめて2曲目にうつるとまた「コレ チガウ」
この繰り返しだった

8曲目くらいまで早送りをしたあたりから私の忍耐と寛容さのスイッチが切れてしまった
「もう こんなの嫌 聴きたいのが無いならこのCD消す」
音楽はなくなり、保育園の駐車場に着くまで沈黙は続いた
CDを消してからもずっとあきちゃんはうつむいたままだった

私の焦りをそのままあきちゃんは吸収し それがさらに濃縮されて彼女はことばを失ってしまった

「あきちゃん てをつなごうよ」
しばらくして外の空気を吸ったおかげで私は少し気持ちが和らいだ

「ごめん まま あせってしまって さっきはこわかったね」
しばらくまた無言のまま 二人で手をつないで歩いた

「......あっこちゃん ままのこと だいすきやけん」
涙をこらえながら あきちゃんは力強く言った

私は思わず息をのんでしまった
「......あきちゃん ありがとう ままもすきやけん」
これ以上 私はことばにすることができなかった

私たちは保育園の門のところでさよならをした
「いってらっしゃい」

空を見上げてもお日様は出ていなかった

仕事をしながらも さっきの娘のことばがからだじゅうで何度も繰り返し響いていた

 

 

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