赤を塗りかえる

怒りと憎悪に満ちた赤

この赤い衣をいつも身にまとって生きてきた

棘があることも気付かずに

ある時、同じように赤い衣を着ている異邦人と出逢った
その人は鞄の中にたくさんの赤い実を持ち歩いていた
周囲を見る様子もなく ただひたすらに真っ直ぐ速足で歩いていた

私はその赤い実が欲しくてたまらなくなった
いつの間にか走りながらその男を追いかけていた
赤い実がたくさん入ったその鞄を持った異邦人を

「私にも少しだけあなたの赤い実を分けてくれませんか」
私は息を切らしながらその男に言った

けれども、彼は何も答えてはくれなかった
人に分けるようなものではないと言わんばかりに私をじろりと見て再び速足で歩き始めた

「……どうか待ってください あなたのその赤い実がどうしても欲しいのです
煎じて飲めば私の着ている赤い衣は美しくなるはずです あなたの衣のように
私にはあなたの持っている赤い実が必要なのです
どうか 一粒だけ分けてくれませんか」

風が吹き 小さな青い箱が舞い降りてきた

するといつの間にか赤い衣の異邦人は消えていた

私は嬉しさと興奮のあまり 青い箱に入っていた赤い実を煎じずに食べてしまった

 

春の物語

郵便局のねこ

町のはずれにある 小さな村に それまた小さな郵便局がありました

村の集会所を過ぎたところに川が流れていて そこの橋を渡って森を抜けたら 

郵便局は見えてきます

 

毎朝10時になると町から 小包や手紙を取りにくる郵便やさんがやってきます

それに合わせて村人たちは 大切な手紙や贈り物を持ってやってくるのです

さて 今朝もいつものお客さんたちで おしゃべりが交わされていました

そして今日はその中に珍客が一匹

そう あの白い猫です

この猫は春になると 手紙を一通書いてやってきます

切手を貼った何も書いていない白い封筒を携えて

 

この猫 書ける文字は

あ り が と う

この5文字

しろ

この2文字です

しろ というのは この猫の名前

だから この猫の手紙には

ありがとう と 自分のサインだけが書かれているのです

これを封筒に入れ 郵便局の人に 宛名を書いてもらうのです

送り先は 遠くの町に住んでいる ライオンです

 

郵便やさんの話によると このライオンが しろに ありがとう と しろ

という文字を教えてくれたとか

しろは町で生まれ すぐに母猫と逸れてしまったのでした

そんなしろを助けて 母親代わりになって 育ててくれたのが このライオンだそう

しろは このライオンを母親として慕い すくすくと成長していきました

 

ある春の日のこと ライオンは突然 しろに 言いました

お前は 自分で食べていくことができるようになったね

私がいなくても もうお前は大丈夫さ

ひとりで しっかりと 生きていかれるのだから

 

しろが眠っている間に ライオンは しろを口にくわえて 町外れの村にやってきました

そしてしばらく行くと小さな郵便局がありました

外に置いてあるベンチの下に しろをそっと置き ライオンは村から姿を消しました

 

長い昼寝から目覚めたしろは 見知らぬ風景の中にライオンを探しました

おかあさん おかあさん

 

けれども 何度呼んでも ライオンの姿はどこにもありませんでした

 

しろは どれくらい 泣き続けたでしょうか

大好きなおかあさんのことを思って

 

空腹なしろのお腹を満たしてくれ 暖かな寝床を準備してくれ 

眠れない夜は 星を眺めながらずっとそばにいてくれました

 

おかあさん

 

それから村には何度も春がやってきました 

しろは おかあさんのいない春を何度過ごしたことでしょう

 

哀しみを乗り越えたしろは ある決心をしました

おかあさんに 手紙を書くんだ

 

村の郵便局には 春が来たら しろがやってきます

おかあさんへの手紙を出すために

 

もちろん しろは おかあさんの住所を知りません

郵便局の人も知りません

けれども 

“ありがとう しろ”

と書いた手紙を封筒に入れて今年もしろがやってきました

郵便局の人は 

“しろの お母さんライオン様行き”

とだけ書いて また一通の手紙を大切に保管しておくのでした

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