読書録:川端康成『山の音』

春の水
いつものように湯舟に浸かりながら読書を楽しむ。
気付けば額から頬へと汗が伝っている。湯温はだいぶ下がっていたが寒さは感じなかった。
昨秋から読み始めた川端康成の『山の音』を読み終えた。しばらく静かに物語の余韻に浸っていたくなった。
寝間着を着て風呂場の窓を開けたら雨の音がしていた。まだ降り始めたばかりなのだろう。
窓から手を出せばすぐのところで雨に届くはずなのにもっとずっと遠くの方から聞こえてくるような控えめな音。辺りの空気を優しく包み込む雨。
窓を開けても寒いとは感じなかった。
水が飲みたい。
夕方に神社で汲んで来た水を湯呑みに注いで喉を潤した。私はとても喉が渇いていた。
ひんやりと新鮮な水が体じゅうに染みわたっていった。
近いのに遠くから聞こえてくるような雨音と山の水が私の中で共鳴し合い一瞬で溶け合った。
水が春を告げていた。

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